「具」という漢字をよく見てみよう。

上には「目」があり、
下にはなにやら足のようなものが生えているではないか。

もしかしたら、
僕らが生まれるずっと前、
具は生きていたのかもしれない。

彼らはその目で世界を見て、
その足で大地を這いずり回っていたのかもしれない。

そして、いま。
カップヌードルBIG、10年ぶりの具材増量リニューアルに伴い、
具たちが、目を覚ます。

BIG〜♪
具、増える〜♪
具、増える〜♪

平成を代表する、あのホラー映画の主題歌にのせて、
カップヌードルBIGの容器から、具材たちが這い出してくる。

しかし、その旅路は、決して安全なものではない。

後ろから迫り来るのは、
やや巨大化した謎肉とカニカマ。
中には踏み潰されてしまう者もいるだろう。

それでも彼らは決死の覚悟で進みつづける。
人間たちに伝えに行くのだ。

「カップヌードルBIGに具が増えた」ということを。

具材たちの声を担当されているのは、本CMの監督です。

大勢のスタッフがいる中で、ひとりでスタジオにこもり、
「ぎゅべ！」「ぴゃう！」と文字にできない声を発しておりました。

プロを感じました。

「夏こそシーフード！」を伝えるCM。なにか夏らしいモチーフはないかを考えました。
夏といえば海、砂浜、スイカ割り…。おや？「スイカ」って言葉の中にイカが入ってるな…。
そういえばシーフードの中にもイカが入ってるな………。はっ！そうだ！
今をときめくアイドルにスイカ割りならぬイカ割りをしてもらったら夏らしい爽やかな
CMができるかもしれない！そう思いつき、今回のCM企画が出来上がりました。
でもまさか…CM撮影中にあの人が乱入してくるなんて…

沙保里はじっと見ていた。女の子たちが砂浜でイカを割ろうとしている姿を。
「あのイカは彼女たちのものだから…」そう何度も心の中で言い聞かせ、
「イカを割りたい」気持ちにブレーキをかけていた、…つもりだった。
気がつくと沙保里は、イカを叩き割り出していた。
気持ちよりも先に体が動いてしまったのだ。こうなった時の沙保里を止められるものは
霊長類にはいない。沙保里は無我夢中で拳を振り下ろし、イカを割り続けた。
イカを全て割り終えた時、沙保里は指ハートをこさえて、海に向かってこう叫んだ。
「カップヌードル、大好きー！」

それは吉田沙保里と美術部との戦いでもあった。

スタジオの長テーブルに設置されたダミーの
白い風船を１テイクごとにすべて割っていく吉田さん。
対するは、次のテイクまでに新たな風船を長テーブルに並べ、
なおかつその先のテイクに備えて風船を膨らます美術部さん。
パンパンパンパン！
シューシューシューシュー！
吉田さんが割れば、美術部さんが膨らます。
美術部さんが並べれば、吉田さんが割る。

「はい、オッケー！」監督のその声を聞いて、
割れんばかりの歓声と拍手がスタジオに響いた。
風船だけに。

カップヌードルをフォークで食べるべきか、はたまた箸で食べるべきか。そんな議論に終止符を打つため、我々は決断しました。
「フォーーーーク！」と叫ぶおじさんを、壮大な景色の中に透けさせるしかない、と。

なぜ透けているのか？それは、カップヌードルをフォークで食べる文化がまだ世の中に浸透しきっていないから。
なぜ叫んでいるのか？それは、フォークで食べる美味しさを、どうにかして伝えたかったから。

このCMを見て、「え？なんで？」と思った方、安心してください。
作った私たちも「え？なんで？」と思っています。
でも、不思議なことに、最後にはきっとこう思うはずです。

「まあ、フォークで食べてみるか」と。

広大な大地に、静かに吹き抜ける風。
その中で、一人の男が口笛を吹く――バッテリイズのエースさんだ。

すると、遠くの空から「フォーーーーーーク！！」という叫び声が。
振り向いた先には、壮大な景色の中で絶叫する、うっすら透けたおじさんの姿。
フォークを握りしめ、まるで何かを訴えかけている。

もしかしたら、彼は伝説のフォークの化身。
カップヌードルがフォークで食べられる運命を背負った者。
そして、我々にこう問いかける。

「なぜ、箸なのか？たぶんフォークの方が、うまいのに」

彼の魂の叫びは、やがて山々に反響し、空へと消えていく。

スタジオに終始響き渡るおじさんの「フォーーーーーーク！！！」。
リテイクのたびに爆音で叫び続け、スタッフの耳には「フォーク」の残響しか残らない状態に。
最後は「フォーク」という言葉の意味を見失いました。

そして冒頭のエースさんの口笛と、体を揺らすあの動き。
何度も何度も踊り狂い、ついに完璧な出来に辿り着いた姿はまさに執念。
気づけば、スタッフ側が全員、歓喜の叫びを―

そんな混沌とした現場の中、寺家さんのかっこよさが異様に際立っていました。